システム開発やITサービスの導入プロジェクトにおいて、プロジェクトの中核を担う企業を決めるのがベンダー選定です。ベンダー選定では、自組織のニーズを満たすベンダーの候補から最終的に1社を選定することから、慎重かつ丁寧な対応が求められます。
本記事ではベンダー選定の位置づけや重要性を始めとして、具体的な評価項目やベンダー選定時の注意点など、これからベンダー選定に関わろうとしている方にもわかりやすく解説しています。ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
Contents
目次
- ベンダー選定とその必要性
- ベンダー選定でやるべきこと
- ベンダー選定における評価項目の具体例
- ベンダー選定で注意すべきポイント
- まとめ
ベンダー選定とその必要性
ベンダー選定は何らかのITサービスや製品を導入する際に非常に重要となるプロセスです。ここでは、そもそもベンダーとは何かという基本的な部分から、ベンダー選定の重要性やそこに至るまでのプロセスについて解説します。
ベンダーとは
ベンダーという用語はIT業界で一般的な用語であり、システム開発に必要な技術、製品、サービス、エンジニアなどの労働力を提供する企業全般を指します。ベンダーの役割は、顧客に対して信頼性の高い製品やサービスを提供することです。これにより、顧客は効率的な業務プロセスやセキュリティの向上、競争力の維持などを実現することができます。
ベンダーの中にも種類があり、ソフトウェア、ハードウェアを提供する企業、パッケージ化されたシステムを提供する企業など様々です。ベンダーは単なる発注先としての関係に留まらず、プロジェクト全体を率いるリーダーや将来的なビジネスパートナーとなる可能性がありますので、ベンダー選定は入念かつ丁寧に実施する必要があるでしょう。
ベンダー選定の重要性
システム開発やITサービス導入などのプロジェクトにおいてベンダーの存在は単なる発注先に留まりません。自社の価値観や将来のビジョンを共有するビジネスパートナーとなりえる存在です。特に昨今必要性が叫ばれているDXにはITベンダーの力が不可欠であり、ベンダー選定の重要性が高まっています。
そのため、価格や技術力だけではなく、プロジェクト遂行能力、人材、過去の実績などの幅広い観点でベンダー選定を実施する必要があります。
ベンダー選定に至るまでのプロセス
ベンダー選定は一定の段階を踏んで行われるのが一般的です。まず、自身や組織のニーズを明確にすることが重要です。どのような製品やサービスが必要なのか、目標や要件は何かを明確にしましょう。
ニーズが明確になったら、市場で利用可能なベンダーをリサーチします。インターネットや業界の専門誌などを活用して、自社が調達したいサービスや製品を提供できそうなベンダーを絞り込みます。また、この段階で明らかにニーズに合致しないベンダーや経営面でのリスクがあるベンダーは除外することが一般的です。
事前にベンダー側から詳細な情報を得たい場合はRFIを行うこともあります。RFIとは情報提供依頼書という意味で、企業や官公庁が入札や調達における検討材料を得るために実施されるケースが多いです。
RFIを実施した後にはRFPを実施して各ベンダーから具体的な提案を募ります。ここでは、自社が求めるものの仕様や要件を明確にするとともに、各ベンダーの商品力、プロジェクト遂行力などを総合的に判断します。一般的にベンダー選定はRFPの最終段階において既に絞られたベンダー候補から1社を選ぶ段階で実施されるケースが多いです。
ベンダー選定でやるべきこと
ベンダー選定では選定する側でやるべきことや準備が数多く存在します。ここでは、ベンダー選定の中でも特に優先して対応すべき事項について解説します。
評価項目を設定する
ベンダー選定では自社の目的に沿った製品やサービスを提供できるかが最大のテーマとなるため、適性を判断するための評価項目が必要となります。評価項目は下記のように多岐に渡ります。
- 製品やサービスの品質と信頼性
- 顧客の満足度や評判
- ベンダーの経験や専門知識
- 提供される価格とコスト効率
- サポートやアフターサービスの提供状況
評価項目を設定することで自社が何を優先して求めているのかをベンダー側に伝えるメッセージとなります。評価項目はベンダー選定において根幹になる部分であり、最も慎重に検討すべき部分の一つです。
評価基準を設定する
ベンダー評価を公平に行うためには評価項目を満たしているかどうかを判定するための評価基準が必要です。
例えば、要件や仕様への適合性を評価項目とするのであれば、ある要件は必須で満たすべき条件としたうえで、適合する要件が多いほど評価が高めるようにするなどの基準設定が考えられます。また、官公庁が実施する入札であれば技術点や価格点といった形で基準が設定されていることもあるでしょう。
評価基準は評価項目を満たしていると判断するためのものさしになることから、ベンダー選定において客観的かつ公平な判断を行うには欠かせないものです。
評価項目の配点を決める
評価項目と評価基準に加えて、どの評価項目を重点的に評価するかという配点の検討も重要です。
それでは、具体的にどのような形で評価項目の配点を決めればよいのでしょうか。例えば予算が限られていて、とにかく安価かつ小規模なシステム開発を進めたいのであれば、価格の評価項目に配点の比重を置けばよいでしょう。逆に、高度なセキュリティを確保する必要がある場合やAIなどの最新技術を備えたシステムを構築する場合は価格ではなく技術力や先進性を重点的に評価する必要があります。
評価項目の配点を定めることで自社が何を重視しているか、何を優先的に欲しているかをベンダー側に伝えるメッセージにもなります。優先して評価される項目がわかれば、ベンダーとしてもニーズに即した提案をしやすくなるでしょう。
ベンダー選定における評価項目の具体例
ベンダー選定においては、ニーズに合致したベンダーを選定するために評価項目を定める必要があります。ここでは、ベンダー選定でよく見られる評価項目の具体例を紹介します。
要件や仕様への適合度
ベンダー選定においては要件や仕様への適合度は重要な評価項目です。自社が掲げる要件や仕様に対してマッチしたものであれば、実際に導入した後にミスマッチが発生するリスクを抑えることができます。
逆に高度な技術が使われている、価格がリーズナブルであるといった点が評価されても、提示した要件や仕様にそぐわないものは適合度という観点で高い評価を与えられません。
自社の求めるものが明確である場合は、要件や仕様への適合度に配点を多くし、自社のニーズを的確に満たそうと努力するベンダーを評価するべきでしょう。また、ベンダー選定時にベンダー側に提示する仕様や要件はIT部門だけではなく、実際に業務にあたるユーザー部門も含めて検討することが重要です。
過去の業務実績
ベンダーがこれまで手掛けてきた事業やプロジェクトの実績を評価項目とすることで、ベンダーの業務遂行力、得意な分野などを知ることができます。
業務実績が豊富であれば、該当する分野の人材が潤沢であると判断できるでしょう。また、業務実績は企業の安定性や事業継続性を示すバロメーターにもなります。業務実績を吟味することで、プロジェクトを途中で投げ出される、倒産してしまうといったリスクを下げることが可能です。
しかし、過去の業務実績を重視しすぎると先進的な技術を扱うスタートアップが選定から漏れてしまうことも考えられます。他の評価項目にも同じことが言えますが、組織の目的や全体のバランスを考えて配点を検討しましょう。
提供価格
サービスや製品の調達には当然コストがかかります。営利企業であれば可能な限り低価格で仕入れを行い、最大限の効果を出すことを目指すことが求められます。そのため、ベンダー選定においてはコスト面での比較も必要です。
しかし、価格に評価の比重を置きすぎると技術力やプロジェクト遂行能力の高いベンダーが撤退し、結果的に質の低いベンダーだけが残ってしまうというリスクもあります。また、長期間に及ぶプロジェクトの場合はイニシャルコストとランニングコストの両面で評価することも重要です。
提要価格の評価項目は自社の目的や予算と照らし合わせ、他の評価項目とのバランスを考えて配点を検討すべきといえます。
技術力や先進性
近年はシステム開発においてもAIなどの先進技術を取り入れる例が増えていることから、ベンダーの技術力や先進性も重要な評価項目です。
近年はAIやビッグデータなどIT技術が目覚ましく発展しています。そのため、技術的な優位性や先進性がある企業は大企業であるとは限らず、創業間もないスタートアップであるケースも珍しくありません。
特にIT分野では、技術力や先進性の評価が企業の安定性とトレードオフの関係になる可能性があります。技術力や先進性をどの程度優先的に評価するかは自社内での意見を取りまとめておく必要があるでしょう。また、社内での検討結果を踏まえて、技術力や先進性に関する評価項目の配点を決めることも重要です。
プロジェクト遂行能力
システム開発やサービス導入を目的としたベンダー選定の場合、目的の達成までには長期間に及ぶプロジェクトを立ち上げる必要があります。プロジェクトを立ち上げる場合、社内外に存在する関係者の利害関係を調整しながらの円滑なプロジェクト運営が必須です。
長期間に渡る取り組みが予想されるのであれば、プロジェクト遂行能力も重要な評価項目とすべきでしょう。プロジェクト遂行能力を評価するために、ベンダーの業務実績、責任者の職務経歴、資格などを評価基準にします。また、ベンダー選定前の段階で財務やコンプライアンスに問題を抱えているなど、長期間のプロジェクト運営に適さないベンダーは除外しておくことも重要です。
プレゼンテーション
ベンダー選定の最後には各ベンダーからのプレゼンテーションを求めるケースがあります。プレゼンテーションを評価項目に加えることで、お互いに顔の見える形で責任者の人間性、説明のわかりやすさなどを評価することが可能です。ベンダーとしても将来のビジネス獲得に向け、プレゼンテーションには力を入れてくると考えられるため、ベンダーの熱意を図る場としてもプレゼンテーションを活用できます。
プレゼンテーションを評価項目とする場合は、プレゼンテーションのわかりやすさ、論理性、質疑応答への対応などもより細かな評価項目として加えるとよいでしょう。また、評価する側も事前に質問を準備しておき、有意義な質疑応答となるよう準備しておく必要があります。
ベンダー選定における評価項目の配点イメージ
ベンダー選定においては、評価項目の配点によって結果が大きく変わる可能性があります。ここでは、業務実績、機能の網羅性、コスト、技術の先進性、プロジェクト遂行能力という5つの評価項目でベンダー選定を行うケースを考えてみましょう。また、それぞれの評価項目における配点は以下の通りとします。
- 業務実績:20点
- 機能の網羅性:30点
- コスト:10点
- 技術の先進性:20点
- プロジェクト遂行能力:20点
上記5項目で合計100点
さらに、選定対象となったベンダーの獲得点数を以下の通りとします。
A社(合計70点)
業務実績:15点 機能の網羅性:20点、コスト:10点、技術の先進性:10点、プロジェクト遂行能力:15点
B社(合計75点)
業務実績:15点 機能の網羅性:20点、コスト:5点、技術の先進性:20点、プロジェクト遂行能力:15点
C社(合計40点)
業務実績:10点 機能の網羅性:10点、コスト:5点、技術の先進性:5点、プロジェクト遂行能力:10点
上記のケースですと、まず全体の合計点数が最も低いC社が候補から脱落します。一方で、A社とB社では僅差でB社が上回るものの、「コスト」と「技術の先進性」の配点が逆であれば選定結果が逆転していた可能性もあります。このケースでは、多少コストが高くとも先進的な技術を持つベンダーを選ぶ意図があったといえるでしょう。
このように、評価項目の配点によってベンダー選定の結果が左右されることがあるため、自組織で優先すべき事項が何かを明確にした上で、慎重に配点を検討することが重要です。
ベンダー選定で注意すべきポイント
ベンダー選定は、プロジェクトの成否を決める重要なイベントと言ってもよく、注意深く進める必要があります。ここでは、ベンダー選定において特に注意すべきポイントを2つ紹介します。
中立的な姿勢で選定を行う
ベンダー選定は自社で設定した評価項目や評価基準に従い中立的かつ公平に行われるべきです。
例えば、経営者同士で個人的なつながりがあるから、過去何十年とお世話になってきたからといった理由で特定のベンダーが有利になることはあってはなりません。
また、事前に自社に有利な評価項目や基準を設定するようにベンダー側から水面下で調整をかけてくることも考えられます。新システム導入に向けたベンダー選定を行う際に、現行システムを運用するベンダーが介入してくるケースもありうるのです。
恣意的なベンダー選定を避けるためには、可能な限り客観的な評価項目や評価基準を準備し、選定の過程が属人化しないよう注意を払いましょう。
評価項目の配点は慎重に検討する
評価項目は、価格と技術力、企業の安定性と先進性など、場合によってはトレードオフの関係になることがあります。そのため、どの評価項目にどれだけの配点をするかによってベンダー選定の結果が大きく変わる可能性があるのです。
例えば、技術力に配点の比重を置きすぎるとコストが高いベンダーが残ってしまう、あるいはあまりにも過去実績や安定性を評価しすぎると先進性を持つ企業が撤退してしまうといったケースが考えられます。
評価項目の配点はベンダーに対して自社のニーズを示すメッセージとなります。評価項目の配点を検討する際には、組織の目的やニーズを整理して本当に何を優先すべきかを明確する必要があるでしょう。
まとめ
システム開発やITサービスの導入を検討する際に実施されるベンダー選定は、プロジェクトの成功を左右するといってもよいほどの重要性を持つイベントです。特に評価項目や評価基準の設定については、有識者を交えて慎重に検討する必要があるでしょう。
本記事を通してベンダー選定で抑えるべきポイント、注意点を理解し、ベンダー選定について詳しく知るきっかけとしていただければと思います。