BPRで業務改革に取り組みたいと考えているが、具体的に何をすれば良いのか分からないという方も多くいるでしょう。
BPRを理解することで、業務改革に向けた具体的なアクションが取れます。
本記事では、BPRの目的からそのメリット・デメリット、具体的な導入手法までを網羅的に解説します。
記事を最後まで読むことで、BPRの全体像を把握し、成功させるためのポイントを理解できるでしょう。
Contents
目次
- BPRとは?
- BPRと業務改善の違い
- BPRに取り組むメリット
- BPRに取り組むデメリット
- BPR導入の手法とステップ
- BPRの成功事例
- BPR実施にあたってのポイント
- まとめ
BPRとは?
業務改革に取り組み、効率化や生産性向上を目指すなら、BPRは注目すべき手法です。ここからは、BPRの目的や意味、改めて注目されている背景をわかりやすく解説します。
BPRの定義
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)は、企業の業務全体を根本的に見直して、より効率的なプロセスに再設計する手法です。
具体的には、各部署が関与する業務フロー、業務をサポートする情報システム、組織構造を対象に再設計を行います。
各部門が独自に効率化を図ることもありますが、全社的に統合されていない場合、企業全体として非効率な結果を引き起こす可能性があります。
BPRは業務プロセスの非効率を解消し、企業全体で効率的な業務運営ができるように、根本的にプロセスを再設計する取り組みです。
BPRの目的と背景
BPRの主な目的は、企業の業績向上と顧客満足度の向上を実現するために、既存の業務プロセスや組織、価値観を根本的に見直し、効率的なものに再設計することです。
BPRが広まった背景には、1993年にマイケル・ハマーとジェイムズ・チャンピーによって出版された著書『リエンジニアリング革命』があります。その後、多くの企業がBPRの重要性に気づき、導入を進めるようになりました。
BPRは企業が持続的な成功を収めるために、業務プロセスをゼロベースで考え直す手法と言えるでしょう。
BPRが注目される背景
BPRが注目されている背景は、主に人手不足、働き方改革の必要性、社会環境の変化、少子高齢化、DXの推進です。
既存の業務プロセスは、企業内に一定数以上の人手がいることを前提に設計されています。しかし、日本の人口減少と高齢化が進む中で、今後、社員に過度な負担がかかる可能性が高まっています。
特に、生産年齢人口の減少が進むと、業績の縮小は避けられなくなり、企業は新しい働き方や業務プロセスの見直しを急がざるを得ません。
さらに、DXの推進によって、デジタル技術の活用が業務改革に不可欠な要素になっているのです。DXはビジネスモデルの変革に焦点を当てるのに対し、BPRは業務プロセス自体の改革を目指します。
両者は異なるアプローチですが、DXを成功させるためには、BPRによる業務プロセスの根本的な見直しが必要です。
このような状況から、企業だけでなく自治体においてもBPRの取り組みがより一層重要とされています。
BPRと業務改善の違い
BPRと業務改善はいずれも企業の効率化や業績向上を目的としますが、アプローチが根本的に異なります。
業務改善は、既存の業務プロセスに対して部分的な改良を行う方法です。具体的には、特定の部署や担当者を対象として、無駄な手間を削減したり、情報フローをスムーズにするような調整をしたりします。
一方で、BPRは業務プロセス全体を対象に、根本からの再設計と改革を行います。
短いスパンでの効率化を求める場合は業務改善が適していますが、長期的な競争力を高めるためには、BPRによる根本的な改革が不可欠となるケースもあります。
企業の目的や目指すべきビジョンに応じて、BPRか業務改善を行うのかを選択しましょう。
BPRに取り組むメリット
現在の業務プロセスにおいて非効率なプロセスや意思決定の遅さに悩んでいる方も多いでしょう。BPRに取り組むことで、これらの課題を解決するメリットがあります。
ここでは、BPRがもたらす具体的なメリットについて詳しく解説します。
生産性が向上する
BPRによって企業全体の生産性を向上させる可能性が高いです。BPRは業務フローから組織構造まで、企業全体を包括的に見直す手法です。全社レベルでの分析により、意外なところに潜んでいる生産性が低い原因を発見できる場合があります。
例えば、販売部門と製造部門の連携が不足している場合、生産スケジュールが不適切になり、生産性が低下する可能性があるでしょう。BPRによって課題が明らかになれば、連携を強化するプロセスを設計することで生産性が向上します。
企業にとって生産性の向上は、労働時間の短縮やコスト削減にも貢献するため重要です。
意思決定がスピードアップする
BPRによって、業務プロセス全体を分析し、意思決定の遅延やボトルネックがどこで発生しているかを特定できます。
例えば、製造部門とマーケティング部門の連携が不十分であると、生産スケジュールの遅れが引き起こされる場合があります。BPRの分析によって、ボトルネックの特定が可能です。結果として、各部門が何を決定すべきか、その決定がどのように情報として流れるべきかが再設計できます。
このように、BPRは不明瞭だった意思決定フローを明確にし、企業全体の意思決定をスムーズにします。
顧客と社員の満足度が向上する
BPRによって、顧客と社員の満足度向上に期待ができます。顧客に関する業務プロセスを根本的に改善した場合、サービス品質が向上します。サービス品質が向上すれば、顧客の満足度も自然と上がるでしょう。
例えば、顧客からの問い合わせに対する対応時間が短縮されれば、顧客はより早いサービスの体験をすることで満足度が高まります。また、BPRによって業務が効率化されれば、社員の作業負荷が減少し、社員の満足度も上がる可能性が高まるでしょう。
結論として、BPRは業務効率化を通じて、顧客と社員の双方に対する満足度の向上を促す可能性があります。
BPRに取り組むデメリット
BPRは企業の業績向上に多くのメリットをもたらしますが、いくつかのデメリットもあります。しかし、デメリットとその対処法を理解することで、より効果的にBPRに取り組むことが可能です。
ここからは、デメリットとその対処法について詳しく解説します。
労力・時間・コストがかかる
BPRには労力、時間、コストがかかるデメリットがあります。全社的な業務プロセスの改革は、多くのリソースを必要とするためです。
具体的には、外部コンサルタントを参画させる場合、外部コンサルの費用や社内での業務遂行に影響が出るケースが考えられます。例えば、コンサルタント費用が数千万円となり、多くの社員がプロジェクトに参加するための時間が必要になる場合があります。
対処法として、予算と時間を事前に見積もり、段階的にプロジェクトを進めることが効果的です。コンサルタント費用や社員の作業時間についても、進行状況に応じて柔軟に調整しましょう。
BPRは多くのリソースを要しますが、事前の計画と段階的な進行によって、デメリットは最小限に抑えられます。
失敗すると大きな影響が出る
BPRの失敗は、企業に大きな影響を与える可能性があります。BPRが業務プロセス全体に対する根本的な改革を目指すため、失敗した場合のリスクが高いためです。
具体例として、業務プロセスの再設計が不完全であった場合、製品の品質が低下し、顧客からの信頼を失うことが考えられます。また、社内のコミュニケーションが乱れることで、業績に悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
対処法としては、プロジェクトのリスク評価を行い、できるだけリスクを最小化する戦略を立てることが重要です。また、プロジェクトの進行中に定期的なレビューを行い、必要な調整を加えることで、リスクを低減できます。
BPRに失敗する可能性がありますが、適切なリスク管理と計画によって、デメリットは緩和されます。
社員から反対される可能性がある
BPRは業務プロセスや組織構造の根本的な変更を伴い、社員の適応に時間と労力が必要なため、社員から反対される可能性があります。
具体例として、BPRによって部署が統合される場合、それまでの業務や役割が変更される可能性があります。このような変更に対して、社員からは不安が出ることが一般的です。
対処法としては、プロジェクト初期から社員に変更の必要性や背景を明確に説明することが重要です。また、社員からの意見も尊重することで反対を最小限に抑えられるでしょう。
社員からの反対は避けられない場合もありますが、適切なコミュニケーションと調整によって、デメリットを緩和することが可能です。
BPR導入の手法とステップ
BPRにメリットを感じ、いざ導入する際に、どのようにしてBPRを効果的に導入すればよいのか分からない方も多くいるでしょう。
BPR導入には5つのステップがあり、それぞれについて詳しく解説します。
ステップ1:目的・目標の設定
最初のステップとして、目的と目標の設定が必須です。目的と目標が不明確な場合、プロジェクトは進行するものの方向性を見失い、結果的に成功する可能性が低くなります。
また、目標設定が不適切な場合、リソースの無駄遣いや社員のモチベーション低下が懸念されます。そのため、目標設定時には各関係部門やステークホルダーと十分な協議を行い、現実的な目標を共有することが重要です。
ステップ2:現状の把握と分析
現状の把握と分析は、課題を明確にする基盤となる重要なステップです。正確な現状把握がなければ、どの部分を改善すべきか見極めることができず、効果的な改善が難しくなる可能性があります。
具体的には、業務フローを可視化し、時間、コスト、人員などについて分析することで、課題を明らかにします。例えば、製造部門に問題があると考えていたが、実際には物流部門での効率性が低いという課題が浮かび上がるなどです。
現状把握と分析を丁寧に行わないと、後の改善プランが的外れになる恐れがあります。そのため、専門家の意見を取り入れたり、データ分析ツールを用いたりすることで、課題を正確に抽出しましょう。
ステップ3:ビジネスプロセスの設計
ステップ3では、ビジネスプロセスを具体的に設計します。ポイントは目的と目標に基づき、どの課題を優先して解決するかを決めることです。
具体例として、ステップ2で特定された課題の中で最も影響力が大きいものに最初に取り組むことが重要です。例えば、製造と物流間の連携に課題があるなら、新しい情報共有システムを導入するといったプロセス改善の設計が考慮されるでしょう。
このステップが不十分だと、後続の施策がうまく進まないか、新たな問題が出てくるリスクが高まります。そのため、計画をしっかりと策定し、関係者と共有しなければなりません。
ステップ4:施策の実施
ステップ4では、計画されたビジネスプロセスの改善策を具体的に実施します。重要なのは、施策を段階的に展開し、効果を評価することです。
具体的には、新しい業務フローが計画通りに機能するか、目標に対してどれくらい寄与しているかを評価します。例えば、新しい情報共有システムを導入した後、情報の流れがスムーズになったかどうか、作業効率が向上したかどうかを確認します。
不十分であれば、次の施策に移る前に新たな課題を解決しなければなりません。そのため、効果の検証を経て、必要に応じて調整を行うことが重要です。
ステップ5:モニタリング・評価
ステップ5では、施策が実施された後の状況を継続的に監視と評価を行います。目的は改善策が持続的な効果を発揮しているかを確認することです。
具体的には、新しい業務フローやシステムが導入された後、定期的にKPI(Key Performance Indicators)などの指標を用いて効果を測定します。例えば、業績向上が目標であれば、売上や利益率を定期的にチェックします。
ステップ5は施策が成功しているか、または改善が必要かを継続的に評価するフェーズと言えるでしょう。
BPRの成功事例
ここからは、BPRの成功事例について解説します。他企業の成功事例から学べることも多いでしょう。
業務棚卸表を活用した業務改革の取り組み事例
背景・目的
静岡県では、「行政の質向上」を目指し、BPRを採用。この改革は単なるコスト削減ではなく、質の高い行政サービスを提供することが狙いです。
主な課題
- 複数の改革プロジェクトが同時進行。
- 業務内容や文化が異なる部署が参加。
成果
- 累計5,819の事業見直し
- 累計1,907億円の改善額
- 2009年度の予算は2004年度比で322億円削減
- 投資的経費はピーク時より4割削減
成功のポイント
- 業務棚卸表の活用
各業務の内容や手順を明確にし、業務全体を可視化。
- 職員の意識改革
他部署の成功事例を参考に、職員自らが改革に取り組む文化を形成。
静岡県のBPRの取り組みはスタッフの積極的な参加によって、持続可能な行政改革を実現しました。この事例から学べることは、改革成功のためには明確な目標設定と詳細な分析、そしてスタッフの意識改革が不可欠であることでしょう。
BPRで開発効率を向上させた取り組み事例
背景・目的
タイヤ業界での世界的リーダーであるブリヂストン社は、BPRを活用して「開発業務プロセス改革」部署を設立しました。目的は、高付加価値製品の開発に集中できる環境を整備することです。
主な課題
- 設計者がドキュメント作成やデータ転記に追われ、開発業務に専念できない。
- ノウハウが属人化し、可視化や標準化、共有が不足している。
成果
- 設計開発業務が約15%効率アップ。
- 「品質のばらつきが低減」「本業に専念できる時間が増加」などの声が現場から上がっている。
成功のポイント
- 部分業務のアウトソーシング(BPO)
一部の業務を外部に委託し、設計者が本質的な業務に専念できるようにした。
B社の成功事例は業務プロセスを明確に見直し、非効率な部分を外部に委託することで、本来の目的に集中できる環境を作り上げた点にあります。
窓口業務をワンストップ化するBPRの取り組み事例
背景・目的
千葉県北西部に位置する船橋市は、本庁での申請書作成と手続き案内の窓口業務を一元化する目的でBPRに取り組みました。
主な課題
- 職員ごとのスキルにばらつきがある
- 案内所がわかりにくく、手戻りが多い
成果
- 無駄を排除し、窓口業務が効率的になった。
成功のポイント
- 業務全体の可視化
業務フロー図を作成し、課題を明確化。
- 詳細リストアップ
業務の詳細、作業時間、担当者などをリスト化。
- リスク洗い出し
発生可能なリスクを徹底的に調査。
船橋市のBPR事例は、業務の可視化と詳細なリスク分析を行い、それを基に改善策を実施しました。
BPR実施にあたってのポイント
BPRは企業や組織における業務改革の強力な手段ですが、取り組みにはいくつか注意点があります。ここからは、BPRの成功に欠かせないポイントについて解説します。
明確なビジョンや方針を示し、組織へ浸透させる
BPRの成功には方針の明確性と組織内での浸透が必要です。BPRは業務プロセスの根本的な改革を目指すため、組織内の多くのメンバーが関与します。そのため、方針が曖昧だとメンバーが同じ方向を目指せず、改革が破綻する可能性があります。
注意点はビジョンや方針がトップダウンで強制されると、メンバーのモチベーションが下がる可能性があることです。ビジョンや方針を決定する際は、関係者の意見をしっかりと聞き、共有しましょう。これにより、組織内の認識を一致させられます。
目標とする成果を定量的に定める
BPRにおいて目標とする成果を定量的に定めることで、具体的な行動計画や成果の測定、評価が行いやすくなります。
業務改革の目的や成果が曖昧な場合、具体的な行動計画が立てにくく、成果の測定が困難です。しかし、高すぎる目標を設定すると社員が達成不可能と感じてモチベーションが下がる可能性があります。
目標設定時には現状のデータ解析を基に、達成可能だがやや厳しい目標を設定することが推奨されます。
PDCAサイクルを回す
PDCAサイクルを継続的に回すことで、BPRの取り組みがより効果的に行えます。BPRは一度きりのプロジェクトではなく、継続的な改善が求められます。
PDCAサイクルを回すことで、計画(Plan)、実施(Do)、チェック(Check)、改善(Act)に至るまでのプロセスを継続的に最適化できます。
ただし、PDCAサイクルを形骸化させず、各ステップでの反省点や学びを次のステップに生かすよう心がけることが重要です。そのため、「Check」の段階で、定量的な指標に基づいて評価を行うとより客観的な改善ができます。
まとめ
本記事ではBPRの目的、メリット・デメリット、導入手法、成功事例まで解説してきました。
BPRは単なる業務改善ではなく、業務プロセスを根本から見直し、業務改革を可能にします。また、業績向上、コスト削減、組織の効率化など、多方面での成果を実現できます。
業務改革に取り組む際に迷ったら、本記事が一つの指針となれば幸いです。成功するためのアクションを理解し、効果的な改革を実現してください。